蒸機の時代

日本の国鉄から現役の蒸気機関車が姿を消してから,早くも30年以上の歳月が流れてしまいました.その頃に趣味活動を実践していた人たちは,今では少なく とも40歳代以上となっているはずです.また,蒸機終焉の年に生まれた人,既に30歳代となっているのですから,完全に“歴史”の範疇です.
 けれども,今もなお蒸気機関車が現役だった時代のことを,あたかもつい昨日のように覚えている大勢の人たちがいます.一方では,自分が体験できなかった時代のこととして憧れの目をもってあの頃のことを調べている人たちもいます.
“蒸機の時代”とは,そんな,蒸気機関車のことを愛し続けている人々の,より豊かな趣味活動のために刊行が始まりました.
 編集担当は,昭和30年代から日本各地の蒸気機関車を求めて旅を続けてきた,林 嶢です.自分自身の膨大なネガアルバムから,そして幅広い交友関係の中から,選りすぐりの写真を集め,蒸気機関車が元気だった頃の鉄道情景を誌上に再現し続けています.
 対象となる地域は北海道から九州まで.時には外国の煙にも目を向けます.さらには“蒸気機関車を彷彿させる情景”も,このシリーズの中で採り上げられます.
  誌面の構成は,原則として1頁に写真1枚ずつとしています.これは,数多くの写真を掲載しようとするあまり,1枚ずつの大きさが小さくなって,せっかくの “写真”を楽しむことができなくなるのを防ぐためです.また,写りこんでいる情報が失われるのを惜しむ,という理由もあります.
 写っている個々 の機関車や列車,路線についての詳しい解説は最小限に留め,見る人の夢が拡がるように配慮されています.それでも,少なくとも30年以上も時代を経た情景 ばかりですから,現代では想像がつきづらいだろうと思われることがらの説明や,撮影者がその時点で感じたことなどは,若い世代にも“その時代”を理解して もらうことができるよう,最小限の説明を付け加えています.最小限の記述とはいえ,時代考証には細心の注意を払って記しています.
 このように,このシリーズは,現役の蒸気機関車を知っている人にも知らない人にも,気軽に“あの時代”を味わっていただくための本なのです.

小誌は世紀の替わった2000年“とれいん”の別冊として創刊され,現在では年4回発行している.タイトルのように小誌は蒸気機関車の写真集であるが,最 近はディーゼル機関車,気動車も徐々に採り上げてきている.蒸機と共に非電化区間で活躍,動力近代化に多大な貢献を果たしてきた彼等も電化の進展,車輛の 老齢化等により廃車されたものも多い.また国鉄がJR各社に分割,民営化され機関車の牽く列車はイベント列車,“カシオペア”“北斗星”など特別な列車を 除いて客車列車は消えていった.貨物列車も高速道路の整備等輸送体系の変化により昭和の時代と比べると現在大幅に減少している.客車,貨物列車が元気な時 代の主役は蒸機であり彼等の躍動する様を迫力のある大きな写真で読者に見てもらいたい思いで編集している.また紀行文,撮影談,解説等は必要最小限に留め ており,そして1頁に1枚の写真を原則とした編集方針を貫いてきており,後世に残る写真集として多くの人々の書棚に備えてもらいたいと思っている.
 蒸気機関車を始めとして各車輛は日本だけに限らず外国の車輛も積極的に採り上げている.また機関車だけでなく客車も掲載してきたが,今後も機会ある毎に国鉄・中小私鉄の客車を掲載の予定である.それと共に消え去った中小私鉄の車輛も出来る限り紹介したく思っている.
  ところで写真についてはシャープな画像であることは勿論大切であるが,貴重な写真を掘り起こすことを心掛けている.またいわゆるお立ち台の写真ばかりでな く様々な場所で撮影された車輛の姿を紹介していくように努めている.そして模型愛好者の参考になるべく各車輛のディテール,列車の編成が読み取れるように 配慮し編集を行なっている.それから今後は現在運行されている保存蒸機にも積極的に目を向けていきたく思っており,読者のさらなる投稿を待っている.
  最後に写真は鉄道写真は勿論のこと,大きな画面で見ることにより魅力を感じ,迫力を引き出せるものであるゆえ,84ページの小誌は1頁1枚の方針は今後も 貫いていきたく思っている.また国鉄時代,輸送は鉄道が重要な役割を果たし住民の生活を支えてきた背景を顧みつつ昭和の鉄道風景を偲んでもらえたら幸いで ある.

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